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採択情報・選考総評

平成28年度海洋・船舶科学系総評

海洋・船舶科学系選考委員会委員長

 平成28年度の海洋・船舶科学系への申請件数は139件で、前年度より2件増えましたが、この4年間殆ど変わりません。一方、申請者の所属機関数は39で昨年度より6つ減りました。所属機関数は昨年もその前年度より3つ減っているので、主要な研究機関から従来より多くの申請が出されるため、申請総数が余り変動しないという実態が見えてきます。実際、二桁の申請者があった東京大学と北海道大学からの申請数は23件と18件で、この2つで申請数全体の30%を占めています。両校は海洋学関連の研究所や学部・大学院を複数有する大規模校なので、数多くの異なる組織からの申請があり、機関として纏めると申請総数が大きくなる傾向は一貫して続いています。ある意味では必然の成り行きなのですが、陽の当たらない分野からの採択や、特定の研究機関に過度に偏らない採択を心がけている選考委員会としては、どれを採択するかの判定に悩ましい点もあります。
 この系は人文科学から工学まで、海洋・船舶に関する幅広い分野からの応募がありますので、先ずは、個別の分野に関する今年度の評価を箇条書きで示し、その後に全般的な総括と留意事項を示します。

1.個別の分野に関する総評

○純粋に人文・社会科学系といえる申請は4件だけで、環境経済学の視点から遠隔漁村の実態をつまびらかにしようという「フィリピン海洋保護区」研究と、水位変動や水没した水中遺跡の研究という観点で、海洋・湖沼・河川に共通する課題に取り組む、「琵琶湖の水中考古学的研究」を新規性と独創性の点で評価しました。毎年のことではありますが、今後とも、広く人文・社会科学系の研究でも申請できることの周知・広報を積極的に行い、政策、法制、産業、国際比較、歴史、文明、地域研究などの多様な分野、視点からの申請が一層増えることを期待します。

○海洋物理学関連では、小型で高精度のセンサー等の発達によって普及してきているバイオロギングを応用した研究が注目されました。特に海鳥による海上風の計測は、どの程度の精度で計測できるのか定かでありませんが、新しい手法で、どのようなデータが得られ、どのような結果になるのか、成果を見てみたい研究です。一方、海洋物理に直接関連した研究、特に大洋規模の現象に関する研究では、観測・シミュレーション自体は大規模なものにならざるを得ず、本助成の守備範囲ではないので、既存の観測や計算のデータを用いた解析が中心となり、その場合、研究経費の多くが研究発表の旅費などに当てられる傾向になっています。

○生物関連分野では、昨年度よりもさらに魚病に関する申請件数が増えた印象を持ちましたが、単に海洋生物を材料としてだけ扱っているだけの申請もありました。海洋・船舶科学研究に申請をするのであれば、もう少し海洋自体の問題に目を向けてほしいものです。

○地球環境に関する研究では、人間活動の寄与による地球表層環境の変化に関するトピックスを扱った提案が多かったと感じました。例えば、東南アジアに於ける過去数千年間の気候の変遷と農業生産の関係を解明するという申請です。通常行われる粒度・花粉組成や有機・無機元素分析に加えて、最近見つかったサトウキビに固有の有機化合物を研究して、農業生産の変遷を知ろうという試みです。実際、どんな成果があがるのかはやってみなければ分かりませんが、社会的ニーズに直結した新しい古海洋学研究の方向として注目したいと思います。このような研究は、自然のプロセスのみで機能するシステムに加えて人間活動による影響を評価し、しかも将来の予測を含むので、その提案には、先行研究も含めて現時点での知見あるいは確立された概念や分析・解析技術を整理し、それをベースとして今後、どのように展開するのかといった点が提案のポイントとなります。これらは、提案がフィージブル(実行可能)かどうか判定するのに本質的なものです。具体的なテーマとしては、地球温暖化、海洋酸性化、汚染、生態系の変化などが挙げられますが、これらのテーマは、単独での課題としても取り上げられますが、波及する範囲はとても広いので重要です。

○地球科学に関する申請の中では、同じく社会的要請の高い研究分野として、海底の希土類元素の資源に関する研究が最近盛んになりつつありますが、その形成プロセスに微生物が果たす役割を研究するという申請があり、その新たな視点に期待したいと感じました。

○工学関連の分野では、昨年度は屋外での研究活動を盛り込んだ申請は1/3ほどしかありませんでしたが、今年度は、調査など自分で動いてデータを集める課題申請が多くありました。中でも、廃漁船を使って転覆実験をし、母国(ミャンマー)の川船転覆事故防止に資するという外国人女性研究者からの申請については、実験はそう簡単では無いと思いますが、その行動力を評価します。また、まったく新しいテーマの開拓というものより、従来から研究されてきたテーマに関して、新しい着眼や手法、解析を導入することで、従来できなかったことを可能にし、より踏み込んだ分析を行うことで、新たな知見や展開につながる可能性を感じさせる申請が多かったと感じました。

2.留意事項

 全般的な留意事項としては、研究内容の記述が一般的で、具体的に何をターゲットとしているのかよくわからない申請が散見されました。また、単に指導教員の受け売りのような申請も見られました。ぜひ、申請者自らの考えに基づいて書き、指導教員との違いを主張してほしいものです。審査で評価が低かったのは、申請者自身の問題意識がまだ十分に醸成されていないと思われるもので、目標設定が十分に書き込まれてなかったり、成果目標のアピールが弱かったり、目標達成につながる研究手順が十分構築されていないとの印象を与える申請です。

○本助成は単年度のものです。本助成を受けることで単年度の期間内に何をどこまで明らかにするのかを、より具体的に示して欲しいと思います。1年の研究期間でしかも研究予算も限られているので、それで何をするのか、絞った内容を具体的に記述されたものの方が研究予算の申請として説得力があり好感が持たれます。

○海洋科学の研究では、実験室での研究とともに、フィールドワークがとても重要です。テーマに適したフィールドを見つけられるかどうかは、研究の成果を左右します。今年度は、評価できるユニークな沿岸フィールドの提案や,実験室で確立した高度な分析法をフィールドに適応するという提案もありました。仮説検証型の提案をすることは高度で難しいかもしれませんが、大学院生の申請者も、このような観点を目指してもらえればと期待する次第です。

○4年次生や大学院1年生には特に,自身の研究が海洋科学という大きな分野の中でどのような位置にあり、その課題を解決すると(あるいは解決していく過程で)どのような謎が解き明かされ、そのことが最終的に科学にどう貢献するのか、というレビューが出来るようになりましょう。「これこれが問題になっているから解決すれば人の役に立つ」というのだけでは、研究の重要性を本当に他人に理解してもらえるとは限りません。なぜなら、申請書を読む人もあなたの研究成果を見る人も、必ずしもあなたの専門分野の人とは限らないからです。

○個別の分野では重要であるが、海洋科学との関連が薄い申請をどう扱うかはいつも悩むところであり、担当者の判断が分かれる事もあります。今年度もこのような例がいくつか見られましたが、申請内容のレベルは高いものの海洋科学との関連は極めて少なく、複合領域へ申請すればもっとまともな判断が受けられただろうにと、残念に感じました。

○いつものことですが、書式が守られていない申請書や、誤字・誤変換が直されないまま提出されたものがありました。また、文章が単調で、もう少し下線や太字、図などを有効に活用した方がアピール度が高まるのにと、感じた申請もありました。

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