学校法人立教女学院 理事長 大澤 眞木子
海を渡った図書館
立教女学院短期大学は、2020年3月に、53年の歴史に幕を下ろし閉学しました。現代コミュニケーション学科(もと英語科)と幼児教育科の2学科からなる短期大学の図書館には、多岐にわたる分野の蔵書が約13万冊ありました。立教女学院内での再利用や、近隣の他大学での活用等により、約4万冊の行き先は決まったものの、残りの約9万冊をどうするかが大きな課題でした。
そんな時に学内関係者から、日本科学協会を通じた図書寄贈の情報が寄せられました。さっそく協会の方々にご相談した結果、8万冊以上の蔵書をお引き取りいただけることになりました。しかも、長年にわたり構築されてきた蔵書の価値をご理解いただき、分散させることなく活用する方向を検討してくださいました。その結果、浙江越秀外国語学院に殆どすべて受け入れていただくことになり、専用図書室まで用意してくださったというご報告に、関係者一同たいへん感激いたしました。
立教女学院短期大学の図書館が、浙江越秀外国語学院大学の中に存在し続け、日本について学ぶ方々の一助となり日中友好の懸け橋となることは、立教女学院にとって大きな喜びです。ご尽力くださった日本科学協会の関係者各位、活用してくださっている浙江越秀外国語学院の皆様に篤く御礼申し上げます。
日本科学協会 顧問 大島 美恵子
日中を繋ぐ善意の図書
日本科学協会の事業の柱の1つに、日中交流プロジェクトがあります。今年で22年目を迎えるこのプロジェクトの始まりは図書寄贈です。図書を通じて日本の文化や友好の思いを伝えるため、日本中から善意の図書を募り、21年前、初めて海を渡った2万冊あまりの図書は南京大学をはじめ10大学に届けられました。そして、現在寄贈先は80大学、398万冊を超えております。
私自身も僅かながら、研究書等を寄贈させて頂いており、日本科学協会の多くの先生方からも、特に理系図書のご寄付をいただいております。毎回、どの愛読書を寄贈するか選ぶ際、本との思い出も蘇る中、これらの日本で使われた本が、遠い中国のどこかの図書館で、どなたかの手に取ってもらえる日が来るかと思うと、心が温かくなります。きっと他の寄贈者の方々も同じ思いではないでしょうか。
今後もこの有意義なプロジェクトを更に発展させるためにも、皆さまのお知り合いの日本在住の方で、寄贈図書に興味を持ってくださるような方がおられましたら、ぜひ私ども日本科学協会の活動をお伝えください。私たちは、責任を持って日本の図書を中国の大学図書館へ届けるお手伝いをさせて頂きます。
早稲田大学 名誉教授 川口 義一
老いてなお、<中日两国,友好下去!>
私が「日本科学協会」の日中交流事業の1つ、図書寄贈に協力させていただくことになって、本日でまる4年になります。
2017年7月25日、渋谷で「大平学校第四期生」有志の集いがあり、私もこれに参加しました。そのとき、参加者のお一人、協会常務理事の顧文君氏から協会の図書寄贈事業支援のお誘いを受け、さっそくその年から寄贈を開始しました。
私と中国との交流は、1981年に<赴日留学生预备校>の<专家>だった妻に<探亲>で長春まで会いに行って以来継続し、すでに今年で40年になります。その間、30回以上の訪中でいろいろな方々にお世話になりました。その恩返しがこのような形でできれば、すでに齢70を超えてはいますが、死ぬまで「日中友好」にかかわれると、誇らしく思っています。
私の寄贈図書には、専門の言語学や日本語教育のものが多く、他の寄贈者とは一味違うだろうというのも、ひそかな自慢です。長くご愛用賜れば、幸甚です。
東京学芸大学 名誉教授 谷部 弘子
40年後の恩返し
私は「在中国日本語研修センター」(大平班)の派遣講師の一人として、第1期の1980年夏から3年間を北京で過ごしました。全国の大学からやってきた研修生の多くから感じられたのは、10年の文革期を経ての「取り戻したい」「学びたい」という焦燥感と渇望でした。当時の研修生の先生方の勉学姿勢や意欲に後押しされるように、私は帰国後大学院に進学して学び直し、修了後は日本語教育・日本語研究の道を歩むことになりました。
今回、退職を機に、日本語教育・日本語研究関連の図書・雑誌を寄贈させていただくことにいたしました。中国社会は大きな発展を遂げましたが、それでも、専門的な書籍はまだお役に立てる余地があるようです。私の少しばかりの書籍が、いくらかでも若い学生のみなさんのお役に立てるのであれば、大変うれしく思います。今回の図書寄贈は、私にとって40年後のささやかな恩返しとも言え、このような機会をいただきました貴会に心より感謝いたします。
公益財団法人国際文化フォーラム シニア・プログラム・オフィサー 長江 春子
公益財団法人国際文化フォーラム(TJF)は、設立以来、ことばと文化と交流をキーワードに、日中青少年間の相互学習、相互交流に注力してまいりました。ことばは交流に不可欠なツールであり、書籍は知識のみならず文化を伝える媒体であると考え、長年中国の小中高校に多くの日本語の参考書、教材および青少年に適した読み物を寄贈していました。
出版社である講談社はTJFの主な出捐企業です。TJFは2013年より毎年、講談社から無償提供された1万冊あまりの書籍を、日本科学協会を通じて中国の大学に寄贈しています。これらはすべて今の日本図書市場で売れている新しい書籍です。これを寄贈する目的は、中国の大学において日本語を学ぶ教師と学生の方々に、これらの書籍を読むことを通じて共時的に日本人や日本の文化、社会について理解を深めていただくためです。
中国には古くから「万巻の書を読み、万里の道を行く」(一万冊の本を読んで博学多識になり、一万里の道を旅して体験を積む)ということばがあります。今、世界が新型コロナウィルスの猛襲を受けている非常時期です。日中間の人的行き来にはまだ多くの困難が立ちはだかっています。しかし、幸運なことに、私たちには優れた書籍を通じて文化を伝えることができます。書籍は読書嫌いな人にとっては何の役にも立たないものです。しかし、読書好きな人には宝そのものです。我々が寄贈した日本の書籍が中国の大学で一生懸命日本語と日本文化を学ぶ若い方々に愛読されることを願っております。
関東国際高等学校 外国語科 中国語コース 井内 英人
この春、新学期を前に部屋の大掃除をした。掃除が終わりかけた頃「あれもお願いね」と、長らく部屋の隅にあった段ボール2箱を指差しながら母が言った。それは、僕達が、以前、三年間暮らしていた上海から戻った時の船便で、帰国後2年間ずっとそのままにしてあった荷物だ。
恐る恐る開けると、中には、僕が昔読んでいた本がぎっしりと入っていた。母の話では、海外では入手しにくいだろうからと、僕や弟が読みそうな日本の本を沢山準備して上海に渡り、帰国が決まった時、日本語に興味を持つ中国人の知り合いに渡してきたが、まだ弟が読みそうな本だけは持ち帰ったのだという。
「それなら、これも中国の人に読んでもらえばいいんじゃない?」という弟のひと声で、今回、中国で日本語を勉強する大学生の方々に読んでいただくこととなった。そのような訳で、僕たちの本は再び中国に向かう。次は、この本を読んだ中国の方々に日本に来て欲しいと願っている。