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公益財団法人 日本科学協会

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立方体地球-Cubic Earth-

「立方体地球」視聴に際してのお願い

「もしも地球が立方体だったら」というテーマは、海外ではインターネット上で多くの推論が飛び交い、議論されています。

しかし、この話題について科学的知見をもって科学者が推論し、報告されているケースは見受けられません。
その理由は様々考えられますが、概ね次のようなことが挙げられると思います。
“立方体地球という存在しえない世界を考察することに意味がないこと”
“科学的に考察する経済的な価値が見当たらないこと”
“空想の世界であり科学者が立ち入る領域でないこと”

こうした考えに異論はありませんが、疑問を持つことは科学する心の原点と言えます。
敢えて申し上げるならば、市民が単純に抱く科学的疑問に対して、科学的な考察の余地があり、これに応える教育的価値が認められる場合は、科学・技術の普及振興を図る民間公益団体として、これを取り扱うのも役割の一つと考えます。

それでは、なぜ、このテーマを取り上げたか、そこには理由があります。

一つ目は、老若男女を問わず、多くの方々がこのテーマに関心を示すことです。
地球が立方体になったら一体どうなってしまうのか、その科学的な考察に期待が寄せられ、科学することの大切さを伝えられると考えました。

二つ目は、地球規模で起こる様々な問題を市民がどのように受け止めるか、そのサイエンスリテラシーが問われる時代になってきたことです。
この地球規模で物事を見るときに欠かせないのが、複雑系の科学です。
複雑系とは、相互に関連する複数の要因が合わさって全体として一つの現象が導かれる系を意味します。
私たちの身近なところでは気象学がその一つですが、地球の大きさや質量を変えずに形を変えただけでもその様相が一変することを理解した時、物事の見方についての危うさに驚かされるでしょう。
そうした意味でこのテーマは、複雑系を理解し、そのサイエンスリテラシーの重要性を知る好材料となるでしょう。


三つ目は、地球を再認識するユニークな教育教材として期待できることです。
今回の教育的要素はもちろん「気象」ですが、その気象を決定する大気環境はグローバルスケールで展開する自然の営みであり、気象システムを理解するには、大気環境の総合的なイメージを頭の中に思い描く、想像力が必要です。
ところが、私たちは現実の大気環境の中で生活し、日常的に気象情報を入手できる環境にあっては、そうした想像力を働かせる機会はなかなか生まれません。
しかし、立方体地球という現実にはない世界について想像を巡らせ、気象の基礎となる自然法則を忠実に導入してリアリティーのある思考実験を行うことで、地球をグローバルな視点で見直す有効な教材となり得ます。

ところで、私たちはこれを進めるにあたって、大人から子供まで抵抗なく入り込めるように、エデュテイメントという方法にこだわりました。
エデュテイメントとは、娯楽(エンターテイメント)の中に教育(エデュケーション)的要素を埋め込んで学習させる方法で、身近な例では野外学習や体験学習があります。
今回の立方体地球では、ある意味でSFの世界表現ですから、そのイメージを映像で楽しませることができます。
具体的には、地球を立方体にするとその大気環境などがどのように変化するのか気象学を中心に考察し、その結果をベースにファンタスティックな部分を交えてシナリオを構成し、ショートムービーで楽しむというアイディアです。

専門領域

このため、これを視聴するに際して、前もって理解していただかなければならない事柄があります。
立方体地球には赤道面と極面の2つの世界が存在します。今回は、その赤道面を海洋の有無で分け、この2面について考察しています。また、考察するにあたっては種々の条件設定をしなければなりません。とりわけ、立方体という形状で存在できるかという疑問については、自重による崩壊が起こり、存在しえない形状と考えておりますが、これは無視して考察しています。
生物の存在については、生物が生育し、世代交代を可能にする物質循環過程が整っていれば、いかなる過酷な環境でも存続し得ることがこの地球でも確認出来ています。そこで、人類より高等な動物が存在してもおかしくないという前提で、ファンタジーの世界を描画していますが、生物の発生や進化などを含む生物学上の考察はしていません。

私たちがこの映像を視聴した方々に期待することは、まず自分たちが住む地球が奇跡の惑星であることを改めて感じ取って欲しいこと、そして、グローバルスケールで物事を見る大切さに触れ、その科学的な発想力を醸成する手始めとして、活用していただきたいのです。
この映像の視聴後に、なぜそのような予測が立つのか、是非、皆さまも想像力と知識を駆使して探究してみて下さい。
友人や家族と連想ゲームのようにして会話を楽しみ、地球科学の分野に足を踏み入れていただければ幸甚の至りです。
その糸口となるポイントを、念のためここにご案内しておきます。

立方体地球では重力がどのように働くのか
流体である大気や海洋はどのように在り続けるのか
太陽からのエネルギーを立方体地球はどのように受け止めるのか
地球と同じ惑星運動をするならその影響はどうであったか
気圧や気温、風や雲はどうであったか
人類が生存できる環境は存在したのか
海洋の有無で何が異なるのか

また、立方体地球での大気や海洋の在る姿を、立方体地球模式図として示しておきました。

解説はホームページに記載していますので、関心のある個所から扉を開いて下さい。
難しい数値計算には触れずに、どんな自然の法則を使って予測を導き出したか、少なくとも発想の仕組みは理解していただけると思います。
また、専門的な理論的根拠を確認したい方のために、詳しい解説も準備しています。

皆様方の中には、このような思考実験に何の意味があるのかと思われる方がいると思います。しかし、その大切さを教えてくれたのが2011.3.11に発生した東日本大震災ではないでしょうか。

自然界の驚異は、どんなに科学・技術が発展しても、これを抑え込むことはできません。また、予知・予測についても可能かもしれませんが、それは極めて短い時間スケールの中の話です。当面、人類がその驚異に対策を打てるのは、防災や減災の発想に限られますが、それも想定を超えた大地震では2次災害、3次災害を引き起こし、被害の拡大を招く結果に思い知らされました。
改めて、自分や家族のことを考えた時、最後の対策を検討しておくリスク・コミュニケーションの大切さに気付かされたことと思います。
その肝心のリスク・コミュニケーションのベースとなるのが、想定を超える事態を想定することに他なりません。
この場合の想定は仮定の世界ですから、日頃から考える力を鍛えて、想像力を働かせなければなりません。ところが、情報インフラも含めて、高度な科学・技術によって支えられた社会資本の整備が進み、私たちはそのような発想に立つこともなく、機会も失われてきている感があります。

今回の「立方体地球」は、リスク・コミュニケーションに直接関係するものではありませんが、少なくとも想像する力、考える力の回復に役立つものと確信しています。
蛇足ですが、忘れてならないことは、自然の営みは複雑系で、想定以上の驚異がいつ起きても不思議でないことを肝に銘じると共に、これに伴う被災状況が、地勢や人為的な  開発によるローカルな事情によって変わることも、併せて理解しておくべきでしょう。

「立方体地球」の完成までには、専門の先生方に無理をお願いして月1のペースで夕方からお集まりいただき、理論と数値モデルを駆使して議論を重ね、5年ほどの歳月をかけた自信作です。従って、皆様方の有効な活用を期待して止みません。
どうか、ご視聴される皆様方におかれましては、ご自身の関心にとどまらず、広くこれをテーマに会話の輪を広げていただき、気象について、地球について話題にする時間を共有して下さることを願っています。また、学校教育や社会教育の関係者におかれましては、指導ツールの一つとして、ご活用いただくことを切に希望します。
このために、専門家を派遣する出前講義も計画しています。

最後になりますが、これを完成まで成し遂げていただきました先生方、ならびに関係者の皆さまに、この紙面をお借りして、心から御礼申し上げます。

2014年 7月

公益財団法人 日本科学協会
会 長 大島美恵子

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