ページ内のクイックリンク
  1. このページの本文へ
  2. サイト全体メニューへ
  3. サイト情報メニューへ
  4. お問い合わせへ
  5. サイトマップへ

公益財団法人 日本科学協会

HOME  >  協会の助成活動  >  笹川科学研究助成  >  採択情報・選考総評  >  2026年度 人文・社会系総評

採択情報・選考総評

2026年度 人文・社会系総評

人文・社会系選考委員会委員長

全体として
 日本科学協会の笹川科学研究助成に、人文・社会科学を専攻する若手研究者による申請が多数寄せられたことは、今後の日本の学問研究の興隆に寄与するものと、おおいに期待するものです。
 申請された分野・ディシプリンは、人文・社会科学全体をカバーするものでした。歴史学、考古学、社会思想、社会学、教育学、文化人類学、地理学、社会福祉学、心理学、言語学、文学、美学、音楽学、芸術学、政治学、経済学、経営学、農学など幅広い分野からの応募があり、留学生、女性研究者の応募も目立ちました。好ましい傾向として歓迎します。社会科学で言えば、政治学、経済学、経営学の応募も一定数でてきました。この系統の応募はもっとあっていいと期待しています。
 AI関連の研究が出てきたのも、今日的な申請状況です。単なる実験心理学ではなく、福祉学や社会思想とつなぐ研究申請も現れ、福祉の重要性という時代の要請を着実に捉えた良い研究が増えているのは、実践性ある研究の現れと理解しています。
 申請者のステータス・属性としては、既に博士号を取得しているポスドク、助教、研究員、非常勤講師などが増え、応募者の全体としての申請内容の水準が高まったと感じます。その分、学位の内容にやや安住している風も認められ、全体として学位としての標準的なレベルの研究計画が多く、評価に開きが少ない結果となりました。書ききった学位内容をなぞるのではなく、それを基盤にしつつさらなる独自性のある展開が期待されます。
 本協会の助成費の拡大が実現した今、研究の実施内容とともに研究目的とその社会的意義を再確認する必要があります。その独自性の説明が専門分野から位置付けられることは必須ですが、それだけに閉じすぎず、広い社会性からの意義や普遍性も、例えば、成果の応用発展の形態として説かれると、より説得力が増すでしょう。
 以下に、各項目に少し分け入って、2026年度申請をめぐって、感想と留意点を記します。

1.当該分野への深い貢献と広い社会への貢献
 専門性が充分に深められる研究である必要とともに、その時代的・社会的意義が多くの人に理解できるように書く必要があります。今年の申請でいえば、考古学の研究申請は堅実な内容が多く、平均的に高い評価点がつきましたが、その過去の解明が、今の生活や社会構造とどう結びうるのか、より広い広域社会の歴史的構造の解釈に新しい切り込みを拓く可能性があるか、政治的権力構造が現代の「自他関係」の社会的平等にどう適用しうるかなど、少し思い切った派生的意義も示すことなど、工夫を期待したいと思います。
 英語学でも、少し前までにあった、西洋憧憬が前面に出すぎた申請もバランスのとれた研究内容へと多く変化しつつあり、好ましい傾向です。オリジナルな視点とテーマの掘りこみで、いくらでも「語学」から飛翔する独自性ある研究を開拓できます。例えばフィリピン英語の国際力やフランス人の英語習熟の高さなど、今までの常識から離れた新たな視点次第で、独自の研究世界が拓けます。今年は、音楽学や芸術学の分野で、社会思想につながるような意欲的な申請が多く認められました。どの分野でも、緻密な分析を示すとともに、それは「面白い」「大事だ」と思わせる説明が必要だと考えています。
 その意味で、実験など方法論として自然科学の方法をとる人間科学や心理学の分野に、専門性と広い社会的意義の両面で説得力を持たせようとすることや、図表使用の工夫や初期理解を促進する説明が多く認められてきたことは、研究の意義と実際を伝えるのに必要な努力だと選考委員会は考えています。

2.共同研究ではファースト・オーサーに注目
 一部の申請には、分業を集成した自然科学研究室によくある大規模共同研究や研究室全体の資金調達を目的としたと疑われる申請が見られたことは遺憾です。その意味で、ファースト・オーサーとしての独自性に注目しています。自然科学と人文・社会科学との距離を埋める説明努力を一層行うなど、熟慮と対応に期待したいと思います。

3.萌芽性・新規性・オリジナリティー‐新時代技術と伝統的テーマの新しい掘りこみ
 特に気になった点は「萌芽性」に関する評価です。若手を対象とした研究助成であるにもかかわらず、押し並べて保守的で伝統的枠組みの研究が比較的多かった点は残念でした。若手研究者らしい冒険心に飛んだ立論を期待したいところです。萌芽性・新規性に充ちた問題意識を堅実に深めていく研究を求めています。その意味で、時代の技術進歩を反映し、申請書の内容に新規性、萌芽性が高いものが、例年にも増してあったように思います。
 今年もふくめて近年、増加傾向にある研究内容として、史料のテキストマイニング(17世紀清朝の統治理念を満文史料のテキストマイニングから解いていく研究)やテキスト認識、あるいはAIを用いたデジタル・ヒューマニティーズ分野の研究計画や、健康・Well-beingをキーワードとする心理学・保健医療学分野の研究計画が挙げられます。建築・都市・環境・防災をテーマとする研究計画や楽器演奏を行う申請者による音楽学研究も目を引きました。建築と食文化を結びつけ「フードスケープ」を分析した研究も独創性がありました。地方移住やグリーンインフラなど時代に即した新しいテーマの研究も出てきています。
 新しい日本の国際状況に対応した「酒類流通の自由化」と焼酎業界を、北薩摩の地方性から解いてローカルと世界を結びつける研究や、「パキスタンの受刑者における問題行動のリスク要因」など、局地的と思われる社会状況でも、そこに普遍的な問題を見つけて立論している研究も高い評価を得ました。スリランカにおける修辞学成立史の研究では、パーリ語・サンスクリット語・シンハラ語資料を読み解く専門性を活かしつつ、伝統的テーマや局地的テーマを、多文化共生の普遍的な問題意識で照らし返す研究も、新規性があると認められ、高い評価を得ました。新時代状況に結び付けたり、広い社会性に結び付けたりする、工夫ある照射の方法が求められます。
 今まで認識されてきた歴史的・社会的事実でも、新しい視角から切り込むことで新事実や新解釈が成り立ち、歴史像や社会像を刷新していくことが可能です。漢代中国の逃避行動の研究など、逃避・逸脱というマイナス価値をプラス価値に引き付けた研究であり、中国史の解釈・分析で、新考察を拓いたことに意義があります。

4.研究計画‐研究目的の明確化と方法の明確化
 研究目的が十分に絞り込まれていない研究計画からは望ましい研究成果を期待することが難しいため、明確な説得性のある研究目的を設定することが必要です。また、研究の意義、面白さ、実現可能性が伝わるように、実施内容や研究の特色を記述していただきたいと思います。さらに、研究経費の内容が研究計画の独創性、実現性を評価する一つのポイントとなるため、より丁寧な記述が求められます。
 その研究の明確性を前面化するためには、「研究の実施内容」欄に、研究内容そのものを列記するだけではなく、研究を実施するにあたっての方法を、長期的な現地調査、フィールドワーク、資料収集、実験、インタビュー、短期的だが構造化されたアンケート調査など、研究内容に沿って具体的に書くことが重要です。
 研究は良くても単に本を読むだけなら研究費はほとんどかかりません。なぜその研究費が必要か分かるように書く必要があります。理論研究で立論するとき、文献の読み込みが方法論となるのですが、陳述に工夫が要ります。例えば、どの分野の文献・資料を、どの順番で、どう積み上げて、どう振り返り分析し、さらに問題意識当初に戻って再立論する、など工夫すれば、説得力が増す詳細な方法論を提示できます。そうした説得力ある文献検索・資料解読(読書)プロセスを、工夫をもって示せば、単なる「読書方法」からは一線を画した独自方法論として示せるでしょう。文学などの分野でも、こうした方法論的な精緻化が文献研究には求められます。
 定量的研究に加えて参与観察など定性的研究が増大し、ともに説得力ある論述が多くみられたことは喜ばしいことです。独自性を示すための比較参照文献ですが、本文中に文献を参照しているが、文献リストが挙がっていないものがありました。抜け落ちのないよう堅実に説いていってほしいと希望します。
 採択にいたる研究計画とするためには、本協会の助成を受けて情報収集するのではなく、常日頃から学会や研究会等へ参加し、多様な研究者や学生との交流と情報交換から様々な刺激を受けることにより、自分の研究テーマをより深く掘り下げ、内容の幅を広げる努力が欠かせません。今後、さらに多くの助成にふさわしい魅力的な研究計画が申請されることを期待いたします。

5.支出計画‐図書費、旅費、謝金は注意深く
  優先度低い‐英文ブラッシュアップ料、学会年会費、学会参加、委託調査、論文投稿料

 支出計画では、図書費を漠然と、しかも多額に計上している申請が少なくありません。図書館などで閲覧可能と思われる書籍を購入しようとする申請は、評価が低くなります。そこでしか入手できない地方出版物や特殊な出版物などや、「~分野関連書籍」などと勝手に書くのではなくその確かな書名を例示するなどして、図書資料の購入の必要性を説いて欲しいと思います。アルバイトを使うなど謝金の使用についても、それが本当に必要な助力か十分にチェックされることをお奨めします。基本的に、「自ら汗をかく」研究態度が求められます。また、一般に謝金はその意味が不明瞭になりやすいため、注意深く計上する必要があります。
 研究方法論上、実質的な現地調査を中心に据えるにしても、往復の旅費交通費だけ突出した金額で申請し、他の研究項目に資する出費を計上していないものも、実現可能性が低く評価されます。また理由も明示せず同一海外調査地に複数回渡航する申請も、低い評価となります。季節性なのかカウンターパートの事情なのか、2回以上渡航する研究はその必然性を説明する必要があります。
 調査を外部発注する費用だけに巨額の費用が計上されているのも、好ましくありません。委託費用が全体経費の3分の2以上を占めている場合が多く、「丸投げ」感があります。いろいろな項目への支出計画を推奨します。比較的大きな予算が必要となるウェブアンケート委託費用や赤外線カメラ・3Dスキャナー・パソコンなどの機器購入費用を計上する際には、その必要性についての十分な説明が求められます。研究で本質と言える「自ら汗をかく」研究姿勢に期待したいと思います。
 投稿料では、人文・社会科学系の学会では自然科学誌ほど極端な高騰はありませんが、巨額の論文掲載料が計上されるのも、論文掲載が研究のアウトプットに属する点から見て、好ましくありません。学会年会費や学会参加費も同様で、後優先と考えています。研究内容を構成し肉付ける実質的な調査や研究活動への支出が基本となります。
 研究計画としてはまとまっていても、計画と研究経費の合理的関連性が乏しい申請が一部に見られました。研究計画と予算の合理的関連性を確保することは、研究助成を申請するに当たって必須の事項です。申請書を作成する際、この点に関しては十分な検討を行って欲しいと思います。これに関わって、調査や研究行為の頻度や場所、所在地、個数、機器の使用、複数回ならなおさらその理由叙述が必要ですが、そこに行くことの必要性など、研究計画をもう一度見直し、研究計画と支出計画に整合性があるかを確認してください。

6.推薦を依頼するにあたって
 推薦書についても同様です。推薦書である以上致し方のない面は存在するものの、多くの推薦書が総花的に被推薦者を褒めることに終始しており、研究計画を分析し、メリハリを付けて評価した推薦書が少ないという印象を受けました。この点については強く改善を希望します。今後に向けて、推薦者の推薦の意を感じさせる記述に期待したいと思います。
 若手の研究者については、研究者、研究内容について、評価出来る部分と改善が求められる部分(発展可能性)の双方が存在するのが一般的だと私たち選考委員会では考えています。申請者には、推薦を依頼するにあたって、推薦者に対してその点を明確にすることを求めたいと思います。

 以上の点を留意され、学問的意欲にみち誠実で独創的な研究申請を今後も行っていただきたいと期待します。今年は、全体として、申請額の上限が引き上げられたこともあり、申請件数の増加に影響しました。留学生、女性の申請数も多くさらなる伸長を期待しますが、女性留学生(特に中国国籍)の申請者に占める割合が6%を超えている現状があることにも、注目しています。かつては、中国人留学生の応募に日本語と研究手続きに瑕疵ある申請が目についたものが、今日、中国人特有の観点を日本の研究土壌で融合させている研究をはじめ、総体的に評点の高い研究が多かったことをここに記し、留学生諸氏にはさらなる独自性ある研究へと発展していっていただきたいと期待します。

このページのトップへ