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公益財団法人 日本科学協会

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採択情報・選考総評

2026年度 複合系総評

複合系選考委員会委員長

 複合系は、笹川科学研究助成の各領域(人文・社会科学系、数物・工学系、化学系、生物系)に含まれない、または複数の領域にまたがる研究を対象としています。近年の研究の進展に伴って、そのような研究課題が増え、複合系に申請される研究が、年を追うごとに拡大する傾向が見られますが、中には他の領域に申請する方が適切ではないかと思われるものもあります。複合系に申請するにあたっては、他に適切な分野がないか、よく検討をお願いします。
 複合系の研究は、文字通り複数の研究分野が関係しているので、おのずと主体になる分野とサブの分野があります。そこで、主体になる分野によって申請を分類し、分担して審査します。以下、主体になる分野ごとの総評です。

化学分野
 農学、薬学、生命科学、地球科学など、それぞれの専門分野が抱える課題に対して「化学」を基軸に展開しようとする試みはいずれも興味深く、新たな展開が大いに期待されることから、若手研究者の将来に強い期待を抱かせるものでした。
 一方で、化学分野の研究者による、周辺分野との融合を通じた新しい展開を目指す提案は相対的に少なく、今後さらなる広がりが期待されると感じました。また、生命科学の特定分野に特化した申請も多く見受けられ、「複合系」ならではの意義をより前面に打ち出した、新規性の高いテーマの提案が、今後増えてくることを期待しています。
 複合系は、異分野融合による新たな展開を通じて、これまでにない概念や現象を創出し、新しいサイエンスを切り拓く大きな可能性を秘めています。ぜひ、異分野融合に基づく独創的なアイデアを「複合系」に積極的に提案していただきたいと思います。

生物分野
 
地球環境変動が顕在化し、自然災害が多発した昨今を反映してか、古気候や氷河融解・生物の環境適応の研究提案、地理学・地形学分野の申請が多数、目に留まりました。現象究明や防災等への貢献はそれぞれに意義を感じられるものの、申請者独自の発想・着想での申請という点で、採択に至らなかった提案が多数ありました。個々の提案者からの研究をまとめて進めたら、さらに現象究明となるのではないか、と思えたものも複数ありました。フィールドワーク主体の研究では、旅費の占める割合の大きな提案が多数であり、調査旅費支援が若手研究者に必要な現状が垣間見られました。
 同一研究室から多数応募のあった応用科学として社会実装を目指すような研究提案に関
地球科学分野しては、それぞれが、期待程度の進展は期待できるものの、申請者独自の発想という点で、評価しづらさを感じました。

地球科学分野
 多岐にわたる分野を抱える複合系の中にあって医学と理工学の境界領域に優れた申請が多くみられました。近年医工連携が大きな流れになっていることが反映しているのかもしれません。地球惑星科学領域では従来の手法・概念をそのまま無批判に踏襲したものが散見されました。自分の研究のオリジナルな部分はどこか、しっかりと見据えた申請書作りを心掛けていただきたいと思います。
 修士課程、博士課程、研究員と研究に従事する経歴が長くなるにつれて申請書のレベルも充実したものになっていきます。修士の学生の申請書にはまだ自分の研究課題がその領域の研究の中でどのような位置を占めているのか、客観的な把握できていないものが多くみられます。また筋が通っているように見えても、指導教官の手が入ったらしきものや研究グループで共有されている概念を書き写したようなものも見受けられます。一方博士取得の研究員の申請書は総じて完成度が高く、研究従事年数が如実に反映されているように見えます。この経験時間の差は如何ともしがたいものでありますが、修士課程の学生でも自分の言葉で研究に向かう動機・モティヴェーションをしっかりと書き込むことで魅力的な申請書になると思います。

人間科学分野
 身体を動かす時間が減っています。人も動物であり、身体は動くようにシステム化されています。身近な生活環境や日常生活における良い習慣や問題がある習慣などが、科学の俎上にのせられていないと日頃感じていますが、今回、それらの問題をとりあげて研究する申請がでてきました。たとえば、武術の身心の使い方(「死を賭して行うシチュエーションでの身体技法である武術」は、基本的にリハビリテーションの範疇に入るスポーツとは異なる身心を一体化する技があるに違いない)には、当然、直立二足となり、自らを俯瞰する視線を得ることができたと同時に、身体技法についても合理的なポイントがあるに違いありません。それに果敢に挑戦する女性研究者が現れたことを評価したいと思います。
 複合領域の申請課題にも研究対象を従来の解析方法で評価するだけでなく、深さと広さが加わってきました。とくにスポーツや身体運動あるいは身体技法を研究対象とする場合には、単にパフォーマンスを評価するだけでなく、運動を生み出す器官である骨格筋や腱、関節の動きをも評価できる方法の適用を考える、あるいは重要であるにもかかわらず解析が難しく考慮されていない体幹の冗長性を評価するなど視野を広げてほしいと思います。人の身体は約1,000個の骨格筋から成ることをご存じでしょうか。骨格筋はそれだけでは機能を発揮できず、腱を介して骨に結合し、関節角度を変化させることで動きが生成されますが、それは脳からの神経系を介しての指令があって初めてなりたちます。人間は、立位で当たり前のように行動していますが、支持面積がきわめて狭いのでちょっと考えただけでも制御が難しいことが理解されます。武術で指導のポイントとして言われてきた「居着かない」立ち方を検証する女性が行う研究が申請されたので期待したいと思います。また可塑性の高い脳の記憶のメカニズムとして解析が進んできたCAMKIIの骨格筋における可塑性原理解明に挑戦する申請もまた女性です。生命科学の進展はめざましい。また可視化技術の進展により分子をナノピコオーダーレベルで観察できるようになってきました。生命現象はダイナミックです。自身が興味を持つ現象の本質をどのように捉えるかで、方法論にも工夫がうまれると思います。半世紀前には世界をリードしていた骨格筋の研究が激減しています。一分子の研究や遺伝子疾患の解明は続けられていますが、骨格筋は動物を成立させる器官です。
 「老化」するのは動物の生命原理であるとされていますが、「老化」を進める遺伝子はありません。植物には寿命自体がないし、微生物は環境に栄養があれば分裂し続けます。日々の当たり前の生活習慣や文化に、その名の通り生活習慣病の原因が含まれています。トリプトファンと菜食、運動と風邪などの疾病と口腔免疫応答や呼吸の問題、量だけでは評価できない骨格筋の健康など、生命情報と進展めざましい解析機器の利用で、長寿社会を生きる総合的な科学研究の萌芽が見え始めています。

看護分野
 本年度の当該領域(複合系)にエントリーされた研究計画は、総じて非常にレベルが高いと感じました。未来社会の在り方を問うものが多く、本協会の複合系らしい学際的アプローチが際立っていました。特に、情報社会と人間との関係性、あるいは情報化が進む社会における人間関係の在り方を探究しようとする研究テーマが多く、これからの情報社会の方向性を示唆する内容が目立ちました。
 具体的には、AIとの健全な関係構築を通じて精神的依存の克服を目指す研究、さらにはネットワーク科学によるデータ分析を用いて医療従事者間の新たな役割関係を明らかにしようとする研究などが挙げられます。
 一方、この領域の課題としては、これまでにない新規性の高い取り組みが多いことから、応募者の研究業績が総じて少ない傾向にある点が指摘できます。今後は、過去の文献を十分に踏まえ、現状の問題点を的確に整理する作業が求められます。この営みこそが、研究を通じて未来社会を築いていくための大きな試金石となると思います。

その他の分野
 近年の環境問題やAIの進歩に伴って、自然科学の分野でも、そもそも人間の幸福とは何かという視点が必要な時代になってきたと感じます。そういう点で自然科学と人文・社会科学にまたがる研究は重要な意味を持つと思います。複合系の研究課題も人文・社会科学系の研究にまたがる課題が増えており、研究課題自体は面白いものも多いのですが、自然科学との接点が見えない課題は複合系として評価することが困難です。また、留学生が出身国の社会や文化を研究する課題も散見されますが、せっかく日本に留学して研究するのであれば、その国の外からみた視点での課題設定を試みてほしいと思います。今後、ますます学問分野の流動性が増すものと思われますが、より広い視野での研究を期待します。

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